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André Chang , Ph.D.

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『週刊ダイヤモンド』   2008年3月29日号

2008-04-03

『週刊ダイヤモンド』   2008年3月29日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 733

チベット騒乱が拡大中だ。3月10日に約500人の僧侶が始めたデモは、中国政府の厳しい弾圧と警官隊との衝突のなかで暴徒化し、死者は当局の発表でも一三人に上った。死者を出すほどの武力行使が行なわれたことを、中国当局が認めたわけだ。

実際はどれほどの犠牲者が出ているのか。その点を含めて、チベット暴動の実態を知るのは困難である。各国の取材申し込み、現地入りの要望を、中国当局が拒否しているからだ。

それでも情報は伝わってくる。「路上に放置された遺体は数え切れない」「ラサ市内だけで少女5人を含む80人の遺体が確認された」「死者は三ケタに上る」などの報道がある。そして、チベット暴動は確実に周辺各省に広がりつつある。

抗議行動は、16日には、チベット自治区に隣接する四川省、青海省、さらにその隣の甘粛省に拡大した。四川省のチベット族自治州では、数千人規模の僧侶らを中心とするデモ隊が治安当局と衝突、少なくとも8人の死者が出たと報じられた。

17日には、とうとう、北京に飛び火した。北京の中央民族大学のキャンパスでチベット族の学生グループが座り込みによる示威行動を開始したのだ。これは「産経新聞」の北京特派員、野口東秀記者が「新華社通信」の情報を転電するかたちで報じたものだが、具体的に学生たちの抗議行動がどれだけの規模なのかは不明だ。北京五輪を直前にした中国で、異民族を弾圧する姿を国際社会に晒すことになるのか。そのとき北京五輪はどうなるのか。予断を許さないが、中国当局はあらゆる手段を用いて暴動を抑え込む決意だ。

胡錦濤政権は、一連の暴動は、チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世が指揮すると非難した。中国分裂を目論む輩の仕業というわけだ。 2006年に、中国は反国家分裂法をつくった。中国分裂の動きを反国家行動と位置づけ、軍事力を含む全手段を用いてその動きを封じ込めることを正当化する法律だ。ダライ・ラマ14世を分裂主義者と見なして胡錦濤政権は、いかなる手段を用いても、封じ込めてみせると、言っているのだ。

対してダライ・ラマ14世は抑制された訴えを続ける。中国のチベット侵略と併合。もともと独立国だった祖国が突然武力によって他国の一部とされ、民族の歴史が断絶される恐れのなかで、チベット人は1959年10月、ラサで、大規模抗議行動を起こした。彼らの必死の抵抗は、9万人近くが虐殺されるという厳しい弾圧によってつぶされ、彼らは再び中国に屈した。以来、48年間、亡命生活を続けているダライ・ラマ14世は、いまや「独立」の代わりに「高度の自治」を要求するにとどまる。今回の暴動と鎮圧に関しては、国際社会の調査を求めた。そのうえで、現在も、北京五輪開催に反対しているわけではない。

ノーベル平和賞受賞者として、また、国際社会で大きな影響力を持つ宗教指導者として、ダライ・ラマ14世は、本来なら、チベット独立を声高に要求してもおかしくはない。だが、長年の亡命生活で、中国という国を冷徹に観察し、悟ったと思われる。あの国が自らの立場を変えることはない、と。さらに、国際社会は、それぞれの利益に基づいて行動するのであり、人権や自由の概念のために、中国と対峙し、チベット人を救ってくれる国や政府は、現実にはないのだと。であれば、独立を唱えるよりは、中国側が受け入れるギリギリのところでチベットの民族と文明を守るほうが賢明だと。それが「高度の自治」の要求なのだ。

チベット問題の行方は、抑圧者としての中国の真の姿を見せてくれる。チベット問題が台湾問題と重なって見えてくる。台湾人が断固たる独立国家の国民としての意識を持たなければ、台湾は第二のチベットとなる。