André Chang
, Ph.D.
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コソボ独立宣言の衝撃 (第2弾) 米国大使館焼き討ちをやらせた背景は何か?
2008-02-24
コソボ独立宣言の衝撃 (第2弾) 米国大使館焼き討ちをやらせた背景は何か?**************************************** ▲ 多民族が混在するモザイク国家の宿命 セルビアの諸都市、とくに首都ベオグラードの至る所にある看板は、次の文字が躍る。 「コソボはセルビアのもの」。 冷戦終結直後に筆者はベオグラードに行ったことがある。チトーが各国から国賓を迎えるために鳴り物いりで建てた、いかめしくも荘厳なメトロポールホテルに宿泊したが、タイルがはげおち、床は凸凹で湾曲し、エレベータは蹴飛ばさないと動かなかった。 食堂だけは中世ヨオロッパの貴族社会を伺わせる雰囲気があった。食事もまずくはなかった。市内にはぼったくりのタクシーが横行していた。 パリを思わせる表通りから一歩、裏道にはいると、猜疑心に満ちた目をした民衆が、固まって物臭そうに暮らしていた。或る公園はアルバニア系のホームレスが、或る公園にはクロアチア系の乞食が固まっている。猜疑心の噴出は、他民族への恨みの輝きをおびていた。不気味な雰囲気を感じた。 とても同じ都市に住む「国民」のアイデンティティがあるとは思えなかった。 セルビア正教系(ギリシア正教の流れ)の教会に入る。ちょうど結婚式をやっていたが、外国人に『出て行って』と追い立てる仕草、売店で十字架のアクセサリーを土産に買おうとしたら「異教徒には売らない」と峻拒され、驚かされた(詳しくは拙著『世界経済裏道を往く』(1992年、ダイヤモンド社刊)。 それから十六年を閲し、チトーのこしらえたユーゴスラビア連邦は、スロベニア、クロアチア、ボスニア、マケドニア、セルビア、そしてモンテネグロと別れ、最後に残ったコソボが独立を宣言したのである。 この間、幾多の戦争と虐殺とNATOの空爆があり、結局、コソボには16000のNATO軍の駐留となった。この西側の軍事力の保護のもとにアルバニア系住民が九割をしめるコソボは独立を宣言したのだ。 しかしコソボはセルビアにとっては一つの自治州だから、国家意識から言っても、独立は絶対に容認できない。本来ならセルビアは戦争を仕掛けるべきだろうが、かろうじて止めているのはNATOの空爆の記憶が鮮明だからである。理性ではない。打算からである。92年から95年にかけてのボスニア&ヘルツェゴビナ独立戦争では、NATOと米軍機が78日間、連続してセルビアを爆撃した。 当時、ボスニア外相は米国ユダヤ系PR会社と契約し、セルビアのミロセビッチ大統領をヒトラーと同一視させたうえ、市場の爆破事件を自作自演して、セルビアの所為だと宣伝につとめ、映像を世界に流してミロセビッチ大統領の悪印象を高めた。おなじギリシア正教の立場から、スラブ系民族主義の立場からもセルビアを支援していたロシアは政治的混迷の時期で、部分的な軍事支援しか出来なかった。 ▲国際政治の隙間を絶妙に突いた コソボの独立は、いわば国際政治のドサクサに巧妙に便乗し、しかもEU諸国を十分に根回ししたあげくに弱体化したセルビアの隙を突いた。 台湾独立問題と置き換えれば、中国がいずれ経済的に混迷し、国際的に孤立したとき、台湾が欧米、ロシアを十分に根回したうえで独立を宣言すれば、国際社会は認めざるを得なくなるだろう。 北京は戦争に打って出るほどの蛮勇はなく、激しく台湾とそれを支援する諸国を罵倒するだけで終わる可能性がある。 だから台湾の新聞をみると、日本ではおよそ想像できないほど大々的に、連日コソボをめぐる報道がなされている。 たとえば台湾最大発行部数を誇る『自由時報』(2月18日付け)の一面トップは「新国家誕生 科索沃独立」とある。(「科索沃」はコソボ)。同紙は翌日(2月19日付け)も「美英法徳義 承認科索沃」(米・英、フランス、ドイツ、イタリアがコソボを承認)。 セルビア(寒爾維亜)のナショナリズムは激しい反米デモを行い、在ベオグラード米国大使館、ならびにクロアチア大使館に火焔瓶を投げて炎上させた(この写真は世界のマスコミが一面カラーで伝えた。日本のマスコミだけが二面で扱った)。 米国大使館は25日まで閉鎖された。 英国とトルコ大使館もねらわれた。 21日にはセルビア人20万人の反米デモが電光石火に組織され、デモ隊の一人が死亡、150名が負傷するという事件に発展した。 マクドナルドや欧米系銀行店舗も略奪の対象となった。 セルビアのタディッチ大統領は訪問先のルーマニアで記者会見し、国民に冷静を呼びかけて「暴動はむしろコソボをセルビアから遠ざけてしまう」と理性的に訴えた。 国連はただちに緊急安保理事会を招集し「最大限の言葉でセルビアを非難する」声明を採択した。 ▲ロシアの対応、台湾の反応 他方、ロシアの鵺的な動きは複雑怪奇である。 ロシア上下両院議会は「コソボ独立は領土保全という国際法の一つの原則に違反している」と共同で声明を発表し、「国連安保理事会にコソボ独立を認めないよう働きかける」と言った。 旧ソ連圏ではカザフスタンとアゼルバイジャンがロシアの動きに同調した。グルジアは奇妙なほど複雑な国際情勢をかかえながら、コソボ独立には反対と言った。 グルジア国内に存在する、いわゆる未承認国家の「アブハジア自治共和国」のバカプシ「大統領」は、「南オセチア自治州」のココイトイ「大統領」とともに、モスクワで記者会見し、プーチン大頭領に「両国のグルジアからの独立を早く求めよ」と迫った。ココイトイ『大統領』は、「我々にはコソボよりも明確な独立への法的基盤がある」と語った。 グルジアのサアカシビリ政権の実効支配が及ばないアブハジアと南オセチアは、ともにロシア軍が駐屯し、事実上の独立国家だが、『未承認国家』である。 ともに大統領がモスクワにいることも注目するに値する。いわば“モスクワのロボット”たちだ。 一方でコソボ独立に反対するロシアが、他方ではグルジア内の二つの『未承認国家』の独立を求めるというわけだから二律背反である。グルジアは、こうした文脈からコソボ独立には反対し、沿ドニエステル共和国をかかえるモルドバも反対している。 セルビアの狂信的ナショナリズムは、同国内のアルバニア系住民に向けられ、また早々とコソボを承認した国々の代表部や企業に向けられて、しばらく暴力沙汰が続くであろう。それが西側マスコミに極めて悪い印象を与えるのも事実だろう。 おりから総統選挙の終盤戦にはいった台湾で、この事態の推移を真剣かつ誠実に見極めようとする努力は、どの国よりも強い独立シナリオのシミュレーションの研究に役立つかもいれないという強い動機があるからだ。