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André Chang , Ph.D.

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李登輝台湾前総統会見記

translated by 山本善心の週刊「木曜コラム」<第170号>2008.02.21
2008-02-21

時局心話會のホームページ http://www.fides.dti.ne.jp/~shinwa/
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      山本善心の週刊「木曜コラム」<第170号>2008.02.21
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                         時局心話會代表 山本善心

(170)今週のテーマ
李登輝台湾前総統会見記

 2月15日、弊会(時局心話會)の企業経営者からなる30余名の訪台団
が、東京・名古屋を出発。到着後すぐ呉阿明氏(「自由時報」董事長)を表敬
訪問、翌日の朝刊で会見の様子が報じられた。滞在中は李登輝前総統と
会見、また選挙事務所に謝長廷総統候補を訪ねて激励する。しかし台湾総
統選の最中にもかかわらず、街中が静かな印象を受けたのは筆者だけで
あろうか。

 テレビ番組は馬英九候補の動静で埋め尽くされ、謝氏の映像が少ないと
いう印象を受けた。「これでは馬氏が圧倒的優勢と思われても仕方がない
ね」という参加者の声を聞く。15日の午後5時から弊会主催のシンポジウム
が開かれ、陳雅琳氏(ニュースキャスター)は今回の総統選について、黄石
城氏(前国務大臣)は李氏総統時代のリーダーシップ論などを元側近とし
て語った。

 翌16日午後3時より、我々一行は淡水にある李氏の研究所を訪問した。
当初は1時間の予定であったが、話に熱が入り2時間近くに及ぶ。弊会の
参加者は普段から勉強熱心な方々ばかりで、活発な質疑に前総統も思わ
ずにっこり。下記は李氏の講演内容の要約である。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【日本に残された課題】

 台湾政局の混乱、民主政治の行き詰まり、アメリカとイスラム圏の衝突、
アメリカの国内機構の麻痺、ロシアと中国、中東紛争の長期化など、国際
問題は数多くの課題を抱えている。今回は「東アジアにおける主導権をめぐ
る日中競争と日本のとるべき対策」など、日本と中国の経済関係、リーダー
シップの問題に焦点を絞って話をしたい。

 2月18日、私は『最高指導者の条件』という著書をPHPから出版する。こ
れは総統としての12年間の経験を述べたもので、主に以下の項目につい
て触れている。今回は日本語での出版だが、台湾の選挙関係者にもいずれ
読んでほしいと思う。
①指導者が持つべき哲学:信仰、信念、使命感など
②組織を率いる力:リーダーシップ、現場主義、決断力、愛国心、エリートの
育成など③上に立つ者の行動原理:忍耐力、惻隠の情、大局観、発想の転
換、行動力と意志など

 国際社会の状態が激変する中、東アジア情勢も変貌を遂げている。60年
前の敗戦から起ち上がり経済大国として再生した日本は今、物質面のみな
らず生命力と創造力を持つ国として生まれ変わるべき時に来ている。小泉元
首相による政治改革は画期的だったが、まだ改善すべき点が残されている。
まず憲法を改正し、自衛隊が海外で自由に活動できるようにしなければなら
ない。国家安全会議の設立が安倍内閣消滅とともに挫折したのは残念だっ
た。安全会議は、強い内閣を生み出すためになくてはならない機構であった。

 また教育基本法の改正を通じて、国民のアイデンティティを確立することが
求められる。アメリカ式の自由散漫な教育が行われている現状を廃し、日本
人の品格と教養、愛国心を養うことは、教育の基本であろう。

【アジアの状況と覇権争い】

 北京オリンピックの今年、アジア情勢に動乱が起こる可能性は低いだろう。
だが2009~10年、アメリカと中国の間で太平洋の覇権をめぐる争奪戦が
発生することは考えられる。そしてアメリカがイスラム対策に縛られれたま
までいれば、アジア地域の政治は第二次大戦時まで後退するかもしれな
い。政治覇権をめぐる競争が活発化する中、東アジアのリーダーシップ競
争の主力は日本と中国になるだろう。

 では新たな東アジア情勢の中、日本は果たしてアジアのリーダーシップを
とれるか? 残念ながら、今は程遠いと言わざるを得ない。東洋経済新聞
でも発表したことだが、日本は依然として旧来のやり方から抜け出せていな
い。まず、金と権力さえあればよいという体質・派閥政治から脱却しなくては
ならない。そのような改革制度を作り出すのが政治家の役割だ。

 日本の政党政治のもとでは残念ながら、小泉元首相でさえ全面的な改革
に踏み切れなかった。民主国家であれば、総理は立候補制で決めるべき
ではないか。台湾も同じ問題を抱えているが、根回しで元首を決める制度は
やはり問題がある。

【新たな時代に対応せよ】

 たとえばバブルの後始末の問題がある。1985年以降、大量に入ってきた
外貨が日本銀行に集中した。金余りによるインフレーションが土地や株の高
騰をもたらし、それがバブル崩壊につながった。そのツケが今も日本を苦し
めている。

 しかし台湾では私の在任中に各官僚を説得して、外貨を中央銀行に入れ
ず、各銀行で預金する方針をとった。そのためインフレは起こらず、90年代
のアジア金融危機も無事に乗り切ったのだ。また実現しなかったが、郵便
貯金の撤収も視野に入れていた。

 かつて、お金とは計算のための道具であったが、今では商品そのものに
なっている。つまり金で金を買う時代であり、昔のやり方では通らない。世
界金融資本が世界を回っているのだ。この時代を乗り切るためには新しい
状態に対応した考え方が求められる。アメリカのサブプライムローン問題
に世界が引きずられているのも、金融が世界を回るグローバリゼーション
化によるものだ。

 電子産業についても、台湾の企業はいわゆるバーティカル(垂直的)な方
法はとらず、むしろ横に広がる形=分業を重視する態勢をとった。最初か
ら半導体を作ることはなくまず設計から入り、政府が技術者に貸し付けて
会社を作らせ減税・免税する措置を行った。台湾はNECやシャープのよう
な日本の大企業の下請けから国際的にシェアを広げ、現在電子産業では
アメリカ、日本、ドイツに次ぐ世界第4位のシェアを持っている。

【今こそ新しい指導者を】

 経済でも技術でも世界に突出する日本だが、必要なのは優れた指導者
だ。中国の指導者に対抗できる人材はおらず、冷凍食品問題でも強く出ら
れない。中国は今大きな変化を迎えつつあり、国内でもさまざまな問題を抱
えているが、それをどう利用しどう助けるか、正しく判断して行動に移るべき
ではないか。

 現在伸び悩んでいる日本の国内消費を促進するため、オリンピックも大い
に利用するべきだ。参加者や観客に、日本の持つ技術や商品で何が喜ば
れるかを考え、ギョーザ問題に拘泥するよりまず物を売ったほうがよい。

 アジアの主導権争いにおいて、自国の経済・金融・国のパワー・文化をも
って中国に頭を下げさせる指導者が、日本にはいない。日本にそれができ
ないのは、政治が現場を見ていないからだ。

 一例を挙げると、私は先日の靖国参拝について「中国への挑戦なのか」と
マスコミに聞かれたが、これは私の個人的な問題に過ぎない。実際中国も
ほとんど何も言ってこない。これを挑戦だなどというのは20年以上前の考
え方である。韓国も歴史認識を選挙や外交の道具として長年使ってきたが、
新大統領である李明博氏はもうこの問題にこだわっていない。それが正し
いのだ。

【指導者の条件とは】

 経済、技術で大きな力を持っていながら指導者がだらしなさ過ぎるのが
日本の現状である。これも東洋経済新聞で述べたことだが、アジアで米中
が覇権を争う中で、日本はもっと主体的に行動し、東アジアを指導する国と
しての自信を持つべきだ。軍国主義は論外だが、東アジアの安全保障には
もっと関与してよい。経済協力などさまざまな分野でもっと自信を持ち、幅
広く活躍してほしい。

 指導者になりたがる者は多いが実際にその地位につける者は少なく、成
功する者はさらに稀である。指導者に必要なのは常人の及ばない気概、自
らを激しく奮起させ新たな未来を作る能力だ。成功の機会は限られている
のが現実であり、鍵を握るのはやはり素質と能力である。指導者にこの二
つが不可欠なのはもちろんだが、指導者を選ぶ側にもやはり素質と能力が
必要となる。

 さらに民主国家における指導者は、民に対して誠意をもって民意をくみ、
長期的な計画をもって国民の幸福に寄与するべきだし、民もそのような人
材を選ぶべきだ。その意味では指導者も民も、出発点と願望は同じなのだ。
これが指導者を選ぶ側として、また指導者として私が自他の経験から得た、
指導者の条件である。